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ライダーの身体にフィットした自転車作り

1980年代初頭、モータースポーツ界の雄エンツォ・フェラーリとエルネスト・コルナゴと言う、共に分野は違えどもレースで勝つという絶対的な信念を持った2 人が出会った事から始まった両社のパートナーシップ。

この技術協力によりコルナゴは、フェラーリF1チームのカーボンパーツを製作するイタリアのカーボン専門会社ATR においてカーボンフレームの生産を始め、1989年に発表された「C35」を皮切りに、プロのレースで1,000 勝以上を挙げた伝説のフレーム「C40」を誕生させ、現在世界で最もスパルタンなレーシングバイクだと絶賛されている「C59」へと繋がっている。

モノコックフレームが世の中を席巻する現在でもコルナゴは昔ながらのカーボンラグとカーボンチューブを接合して作り上げる工法にこだわる。
モノコックフレームに比べて圧倒的に多くの職人の手作業が介在しなければいけないデメリットがあり、22サイズのフレーム展開で200種類以上のラグとチューブを用意しなければいけない事が、生産効率を追い求めて行く現在の流れとは逆行しているのが事実である。

しかし、カーボン素材に職人が一つ一つ細かい手作業を施し、全てのカーボンパーツを組み合わせる事により、ライダーが自転車に身体を合わせるのではなく、ライダーの身体にフィットした自転車作りを可能としているのである。 選手が望むバイクを提供する為には時代と逆行していようが、最高の物づくりに全力で取り組む。それが今も昔も変わらぬコルナゴの一貫したレーシングカーボン作りに対するポリシーである。

マスターフレームの存在がロードバイクの歴史と今を繋ぐ

コルナゴ本社オフィス前の通りを挟んだ向いに構えるエルネスト・コルナゴの自宅地下1 階には、C59やM10などの生産が行われているカーボン工場があり、そのすぐ隣はスチールフレームを溶接する工房となっている。この工房では熟練なる技術を有したベテランの職人が2 名で、ラグとチューブやフロントフォークの切削から溶接、ヤスリがけの仕上げからセンター出し作業といった塗装工程までの全てを行っており、毎日けたたましく溶接の炎の音が工房中に響き渡らせている。

コルナゴを代表するスチールモデルである「マスター」は1983年にサロンニがミラノ~サンレモで使って勝った時から続いているが、その繊細な作りと質実剛健な乗り味は多くのライダーに愛され続けている名車である。現代の技術の粋を集めて製作されるカーボン工場のすぐ隣の一角で、今も昔と何ら変わらない工法で手作業により溶接作業が行われている姿は一種奇妙な風景であるが、このマスターフレームの存在がロードバイクの歴史と今を繋ぎ、本質を現代に伝えてくれる貴重な存在であることを決して忘れてはいけない。

スチールフレームが今また見直されている中でも貴重となった、スチールラグにチューブを溶接して作られる姿は実に興味を惹かれるものであり、物の価値とはスペックや価格では計り知れない奥深いものである事を我々に教えてくれる。