ツール・ド・フランス第17ステージで衝撃的な言葉が聞こえました。UAEチーム・エミレーツのチームラジオからポガチャル選手の「I’m dead.」という連絡。前日のタイムトライアルでついたタイム差を取り返すために、ポガチャル選手がいつアタックするのか…。期待と不安が織り混ざった気持ちで画面を見つめていた時でした。

今年のツール・ド・フランスは、スタートから激しい戦いが繰り広げられました。

2020年、2021年と個人総合優勝2連覇を達成し、2022年にヨナス・ヴィンゲゴー選手(ユンボ・ヴィスマ)に敗れたタデイ・ポガチャル選手(UAEチーム・エミレーツ)は、今年王者復活を目指しレースに臨みました。

チームメイトも大幅に強化し、アダム・イェーツ選手を迎えるなど、磐石の体制を築きました。

ロードレースの歴史と共に歩んできたCOLNAGO(コルナゴ)も、チームの活躍に貢献するために持てる技術を総動員した新しいレーシングロードバイク「V4Rs」を投入しました。

そして迎えた第1ステージ。アダム・イェーツ選手が双子の兄弟サイモン・イェーツ選手(チーム ジェイコ・アルウラー)とのゴール前スプリントを制して区間優勝を果たし、早くもチームにマイヨジョーヌをもたらします。

その後も、アダム・イェーツ選手がマイヨジョーヌをキープしながら、優勝候補と目されるポガチャル選手とヴィンゲゴー選手とのタイム差は、ポガチャル選手がわずかにリードしながらレースを進めました。

今年のツール・ド・フランスは、総獲得標高56,266m、フランスの5大山脈を抜ける非常にハードなコース設定でした。そして第5、第6ステージでは、早くもピレネー山脈が現れます。ここでヴィンゲゴー選手に逆転を許すも、第6ステージでは淡々とレースを進めていたポガチャル選手が、山頂フィニッシュ手前で勝負を仕掛けて今大会で区間初優勝を飾り、失ったタイム差も大幅に縮めました。

その後も、ポガチャル選手は勾配12%にも及ぶピュイ・ド・ドームや超級山岳グラン・コロンビエールでさらにタイム差を縮め、徐々にヴィンゲゴー選手を追い詰めます。しかし、ヴィンゲゴー選手はポガチャル選手にピッタリとくっついて離れず、そのほかのステージではタイムさが変わらない こう着状態が続きました。そして、そのままレースは2日目の休息日を迎えます。

休息日明けの第16ステージは今大会唯一のタイムトライアルステージ。ここでレースが大きく動くのでは?という予想が大きくなっていました。

のちのインタビューで、ポガチャル選手もこのステージでマイヨジョーヌを手に入れるつもりがあったことを述べています。

7月18日、ついに始まった第16ステージのタイムトライアル。レースは、ワウト・ファンアールト選手(ユンボ・ヴィスマ)が暫定1位のタイムでホットシートに座ります。そして、残すところポガチャル選手とヴィンゲゴー選手の出走となりました。それまでの選手のタイムを上回る超人的な走りを見せたファンアールト選手のタイムを、丁寧な走りで上回っていくポガチャル選手に対し、鬼気迫る走りでヴィンゲゴー選手がさらにタイムを更新。結果、ポガチャル選手はヴィンゲゴー選手から1分38秒のタイムを失いました。

今大会でも、さまざまなシーンで活躍してきたファンアールト選手も「自身が人間の中で一番早かった」というコメントを残すほど、怪物級の走りを見せた2名でした。

その翌日に迎えたツール・ド・フランス第17ステージは、今大会で最も難易度の高いクイーンステージと言われ1級山岳2つ、2級山岳1つを超えた先に超級山岳ロズ峠が待ち構えるステージ構成でした。獲得標高差は5,405m、ロズ峠は全長28.1km / 最大勾配24%の激坂区間を含みます。

プロトンではユンボ・ヴィスマが序盤からハイペースで牽引するも、ポガチャル選手とヴィンゲゴー選手は同じグループでレースを進めます。前日の遅れを取り戻すためにポガチャル選手がアタックをかけるのでは?と多くのメディアやファンは予想し、いつ勝負の時が訪れるのかと目の離せないレースでした。

しかし、思いもよらない展開となります。ロズ峠の中腹でまさかのポガチャルがみるみると遅れていきました。そして、その後に放送に乗ったUAEチーム・エミレーツのチームラジオに衝撃を受けます。

「I’m dead.」

ポガチャル選手がチームへ伝えた言葉でした。のちのコメントでも「何が起こったのか分からなかった。エネルギーが脚まで届かなかった」と振り返っており、ポガチャル選手にとっても衝撃的なことが起こったのだと思います。

ユンボ・ヴィスマはこのタイミングで、さらにペースアップし、マイヨジョーヌを大きく引き寄せました。

その後も、ポガチャル選手の調子は戻らず、普段の表情からは打って変わって、悲痛な表情で山頂を目指します。しかし、ポガチャル選手の異変にチームはすぐさま反応。チームメイトのマルク・ソレル選手はポガチャル選手のサポートに入り、ゴールまで励ましながら引き連れていきました。

また、この時点で個人総合3位(4位とのタイム差5秒)のアダム・イェーツ選手には、ラファウ・マイカ選手がサポートにつき、表彰台圏内の順位をチームで守りました。

UAEチーム・エミレーツにとって厳しい結果となった第17ステージですが、チームとしては素晴らしい連携を見せ、チームワークが際立つステージとなりました。

「We survived.」

ポガチャル選手の無線連絡を受け、ゴール後にチームラジオからチームに伝えられた言葉です。圧倒的な力でエースとして活躍しているポガチャル選手ですが、チームの皆に慕われ支えられていることが分かる印象的なシーンでした。

今大会でのマイヨジョーヌ獲得は成りませんでしたが、第20ステージでは、山岳で最後の活躍を期待するファンに見事に応えて区間優勝を獲得しました。パリへと向かう第21ステージでもレースを盛り上げる走りを見せ、個人総合成績2位でフィニッシュしました。

アダム・イェーツも3位の座を守り切り、UAEチーム・エミレーツとしては表彰台2つを勝ち取ってツール・ド・フランス2023を終えました。

まだまだ今年のレースは続きます。COLNAGOでは、選手たちのさらなる活躍を期待し、応援していきたいと思います。

ツール・ド・フランス期間中は皆さまから多くの応援をいただき、誠にありがとうございました。

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ツール・ド・フランス2023で王者復活を目指す